探偵黙示録
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実録ファイルA - 呆気ない結末 - 

 私が探偵になって初めて行方調査の仕事を任されたときの話です。行方調査は大変難しい業務で、ベテランの探偵でも実際見つけ出すのに相当の 費用と時間を要します。ですので、依頼者が支払う調査費用も数十万から数百万円単位となってしまい、客層もおのずと、高所得者の割合が高くな ります。

 人間が行方をくらます理由は、借金・異性関係・拉致被害・現実逃避・病的理由ぐらいに限られており、理由ごとにアプローチ方法も確立されています ので一見、直ぐ見つかりそうな気もしますが、やはり故意に逃げている人を見つけ出すのは困難を極めます。

 ある日、一本の電話がありました。電話の主は年配の主婦の方でした。親戚の中に行方がわからなくなった者がいるので探して欲しいということ でした。実際に会って話をすることになり後日、事務所のほうへ来てもらうことになりました。現れた女性は今で言うセレブ風の出で立ちで、とても 品があるように見受けられました。話によると、その方の親類は代々小さな工場を経営してきたそうですが、今回跡取りになった人間が何の相談 も無く勝手に従業員を全員解雇して会社を売り飛ばしてしまったそうです。しかもその売却益を全て持ち逃げしてしまい、関係者全員が困っているという ことでした。とても身勝手でなんとも許しがたい話です。しかしこのケースは故意の逃亡で、行方調査の中でも難しい部類に入ります。 本当に見つけ出すことが出来るのか、その話を聞いた時はかなり不安でした。

 早速、依頼者には対象者についてのデータシートを記入してもらいました。行方調査は対象者のデータがあればあるほど有利になります。逆にデータが 乏しいと、調査が行き詰まった時に別の道を選択できなくなり、お手上げ状態にもなり兼ねないのでとても重要視されています。データシートの記入数は 膨大でわからないところは持ち帰って依頼者に調べてもらいます。

 数日が過ぎ、ある程度の情報が集まったので調査を開始しました。まず対象者の自宅を調べる事にしました。依頼者からカギをもらい部屋へ入ります。 家は普通の一軒家でしたが、ここ数日人が出入りした形跡は無く新聞などが郵便受けにどっさりと溜まっていました。データによると海外逃亡の可能性 もあったので、まずはその点を重視で調べていきます。しばらくすると、箪笥の引出しからパスポートが発見されその線が消えました。正直、ホッとしたのを覚えています。 その時いっしょにアドレス帳も見つけたので、私は聞き込み調査から手がかりを得ようと思い、その日からしばらくの間、アドレス帳に書かれていた 友人知人の元へ出向くことにしました。

 それから一週間ほど過ぎましたが、一向に友人たちから有益な情報を聞き出すことができず、時間だけが過ぎていきました。少しあせりが出てき た私はしだいに、このやり方が間違っているのではないかと思うようになり自信を無くしかけていました。そんな中ふとあることに気づきました。 そろそろ今月の請求書や明細書が郵便で配達される頃です。対象者の携帯電話やクレジットカードの明細を見れば何か手がかりが掴めるかも知れません。 夜遅い時間でしたが、あせっていましたのですぐに車を走らせ対象者の家へ向かいました。

 対象者の家の近所まで来たとき、ある異変に気づきました。一階のリビング付近の電気が点いているのです。対象者の親類や他の調査員が何かの用事 で来ているのかも知れないので、私は事務所に電話で問い合わせてみました。家の中にいる人物は少なくとも調査員では無いことが分かりました。この時間に親類の方が訪れる のも不自然だと思い、私はしばらく車の中から様子を見ることにしました。15分ぐらいが経過したとき部屋の電気が消え、一人の男が玄関から出てきました。 手には少し大きめのバックを持っています。街頭の明かりに照らされたその男の顔をしっかり見ると、間違いなく対象者です。慌てて事務所に電話を入れ 経緯を説明し、尾行する準備に入ります。対象者は車に乗り込み走り去りました。念のために二輪車の応援を呼んで、私も対象者の後を付けます。

 30分ほど経ちましたが、まだ車で移動しています。その頃二輪車の調査員が到着し、尾行を代わりました。私は少し離れたところから引き続き尾行をします。 トータルで1時間ほど、距離にして30キロぐらい走ったとき、あるアパートにたどり着きました。対象者が部屋に入るのを確認して、この後どうするかを 上司に問い合わせました。とにかく目を離すなという回答でしたので、とりあえずその場は二輪車の調査員に張り込みをしてもらい、私はいったん事務所に 戻りました。上司に報告した後、その日は自分の部屋へ帰りました。

 次の日、二輪車の調査員と張り込みを交代するため例のアパートへ向かいました。対象者はまだアパートの中にいる様子です。張り込みを続けていると 午後2時頃、対象者がアパートから出てきました。警戒する様子も無く歩いてどこかへ向かおうとしています。私は車を降りて、徒歩での尾行を開始しました。 着いたのは近所のスーパーです。対象者は食料品を中心に買い物をしています。買い物を終えると、まっすぐ帰りました。どうやら対象者はアパートを生活 の拠点にしているみたいです。居場所がはっきりしている今のうちに親類の方にも接触してもらったほうが良いと判断した私は、上司に相談後、依頼者や その親類を引き連れてアパートを訪ねました。玄関のチャイムを鳴らすと、対象者が出てきました。親類の存在に気づいた対象者は一瞬びっくりした表情を しましたが、慌てたりする様子も無く招き入れてくれました。依頼者に身内だけで話し合いたいと言われたので、私は席を外しました。2時間ほど経過し、 親類の方たちがぞろぞろとアパートから出てきました。どうやら話が終わったみたいです。みんなを送り返した後、私は依頼者を連れて事務所に戻りました。 依頼者の話によると、対象者には少しだけ反省の色が見られ、もう逃げたりしないこと約束したそうです。なので調査はここで終了だということを告げられました。

 私の初めての行方調査は結果的に対象者が見つかり良かったのかもしれませんが、内容は納得のいくようなものではありませんでした。はっきり言って運が よかっただけなのかも知れません。しかし、その後の調査に大いに役立つ経験が出来たのも事実です。


※内容と写真は一切関係ありません。



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