さあ、中へどうぞ
「もうっ!?」
 優しくしてくれない彼と、素直になれない自分が腹立たしくて、哀しくて、私は怒りながら街を歩いていた。
 見知らぬ住宅街の中に迷い込んでしまった不安が、私の苛立ちをさらに大きくする。
「ほんとに、何やってるんだか」
 心に溜まった苛立ちを吐き出すように呟いたとき、耳元で薄い金属をすり合わせたようなしゃらんという音が鳴った。
「そんな恐い顔をしてたら、幸せが逃げて行っちゃうわ」
 澄んだ可愛らしい声で憎らしいことを言いながら、それは私の目の前に現れた。
 瞬間、私は自分の目と頭を疑ってしまう。
 (……妖精?)
 手のひらに乗りそうなほど小さな少女の背中には、蜻蛉のような透明な羽根がやわらかく羽ばたいている。
「あなたには、心の休息が必要みたい」
 彼女がそう言ってくるりと回ると、突然、私の目の前に若い緑に彩られた森が広がる。
「ここはgentle forest。すぐそばにあるのに、どこにもない常春の森。安らぎに満ちた、不思議の空間」
 突然のことに戸惑い立ち尽くす私の肩に降り立ち、彼女はそう教えてくれる。
「不思議の森……?」
「そうよ。さぁ、中へどうぞ。あなたの心の中に、この森の空気をたくさん取り込んでみましょうよ。少しは心が楽になるかもしれないわ」
 思いがけぬほど強い力で肩を押されて、ゆっくりと森の入口へと歩みだす。
 彼女の言うことを信じたわけではないけれど、たまにはこんなことがあってもいいかな……なんて思いながら。

 
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Capricious Diary
Spring in forest