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[ 判決要旨 ]
2006年(平成18年)4月9日、畠山鈴香の長女・彩香ちゃんが行方不明になり、翌10日、能代(のしろ)市の藤琴川で彩香ちゃんの遺体が発見され、翌11日、能代署は「死因は水死で、川に誤って落ちたとみられる」と発表。5月17日、彩香ちゃんの家の2軒隣に住む米山豪憲君が行方不明になったが、同日、能代市の米代川川岸近くで豪憲君の遺体が発見され、19日、豪憲君の死因は首を絞められたことによる窒息死として能代署に捜査本部を設置。6月4日、豪憲君事件の死体遺棄容疑で畠山鈴香が逮捕される。6月8日、鈴香が豪憲君殺害を自供。6月25日、豪憲君事件の殺人容疑で鈴香が再逮捕される。7月4日、秋田簡裁で開かれた拘置理由開示法廷で鈴香が遺族に謝罪。7月17日、鈴香が殺人罪で起訴される。翌18日、鈴香が彩香ちゃん容疑で再逮捕される。8月9日、鈴香が殺人罪で起訴される。2008年(平成20年)3月19日、秋田地裁で無期懲役の判決。法廷で遺族に対し、土下座謝罪するも即日控訴。3月31日、検察側も判決を不服として控訴した。2009年(平成21年)3月25日、仙台高裁秋田支部で控訴棄却。2009年(平成21年)4月8日、弁護側が上告。5月18日、上告を取り下げ、無期懲役が確定。
関連サイト・・・さきがけonTheWeb → 秋田のニュース → 藤里連続児童連続殺害事件
関連書籍・・・『秋田連続児童殺害事件−警察はなぜ事件を隠蔽したのか』(草思社/黒木昭雄/2007) / 『豪憲はなぜ殺されたのか』(新潮社/米山勝広/2006) /『法廷ライブ 秋田連続児童殺害事件』(産経新聞出版/産経新聞社会部/2008.3) / 『橋の上の「殺意」 畠山鈴香はどう裁かれたか』(平凡社/鎌田慧/2009)
2008年(平成20年)3月19日、秋田地裁で無期懲役とした判決要旨は次の通り・・・
◇長女彩香ちゃん殺害
06年4月9日午後6時40分過ぎごろ、大沢橋の欄干のすき間から川面を見せ、暗くて魚が見えないことを納得させようとしたが、彩香ちゃんが「見たい見たい」と言って帰ろうとしなかったため、急激にイライラした感情を高め、とっさに突き落とした。
橋の欄干という極めて危険な場所に我が子を座らせ、助けを求める行為に対し、拒むかのように押し返して転落させ、転落後に救護活動を一切行っていない状況などから、殺意に基づき突き落としたという事実を強く推認することができる。
留置場で「検事さんのネクタイが4日間同じで、笑いをこらえるのに必死だった」などと話しており、捜査段階で殺意を認めた自白調書に任意性・信用性を認めることができる。
◇米山豪憲君の殺害
相当の信用性を認めることができる捜査段階の精神鑑定(苗村鑑定)によると、彩香ちゃん殺害後、急速に記憶を抑圧し始め、06年4月11日ごろには彩香ちゃんを欄干から落下させた記憶は、すぐには想起されない状態になっていた。
公判段階の精神鑑定(西脇鑑定)によれば、彩香ちゃん殺害直後に重篤な健忘が生じたとのことであり、被告の公判供述に沿う内容になっている。しかし、西脇鑑定は母親による乳幼児殺傷事案のほとんどが無理心中であるとの前提に立ち、被告が複数回にわたって自殺を決行しているとの事実認識に基づいているところ、これらの認識は直ちに首肯しうるものとは言えず、公判供述と西脇鑑定は採用することができない。
記憶の抑圧それ自体が行為の是非を弁別し、行動制御能力に影響を及ぼすとは考えられず、犯行当時の完全責任能力を認めるのが相当である。
「被告が彩香ちゃんを殺害したのではないか」という嫌疑をそらすべく、06年5月17日午後3時過ぎ、豪憲君に「彩香の思い出に何かもらってほしいんだけれども」と声をかけた時点で殺害を決意していたと疑うことも不可能ではない。しかし、死体処分の準備をした形跡はなく、被告は捜査・公判を通じ「殺害しようと決意したのは、豪憲君を自宅に誘い入れた後」と供述している。
被告は豪憲君の姿を間近で見ているうちに「彩香はいないのに、なんでこんなに元気なのか」と思い「彩香ちゃんの死が事故ではなく(他人が起こした)事件であるとの主張に目を向けさせる絶好の機会は今しかない」との考えがわき上がり、とっさに首に腰ひもを巻き付け窒息死させた。
◇量刑の理由
幼い児童らの無警戒につけ込んでおり、各犯行が凶悪かつ卑劣であることは論をまたない。
被告は彩香ちゃん出生直後から「愛したくても愛せない」といった悩みを長年抱き、生活を変えようにも彩香ちゃんが足かせになっているなどと感じていた。父親の介護に疲れ逃れたいと夢想する中、彩香ちゃんが駄々をこねたのを契機に疎ましさが爆発し「彩香ちゃんを排除すれば未来が開けるのではないか」と、とっさに考え殺害に至った。母親として果たすべき責任を放棄したいという動機は、極めて身勝手かつ短絡的である。
「怖い」と言いながら抱きつくように助けを求めてきた我が子を突き落とした犯行態様は非道極まりない。彩香ちゃんは可能性に満ちていたはずの未来をわずか9歳で奪われ、母親に愛されようとけなげに振る舞っていた彩香ちゃんの「母親に裏切られた」という衝撃や絶望感の深さを考えると哀れというほかない。
「自分が彩香ちゃんを殺した」という現実から目を背けたいという身勝手極まりない思いから豪憲君殺害に至った経緯に酌むべき事情はみじんもない。無抵抗の豪憲君の首を数分間力いっぱい絞め、息を吹き返すかのような様子を見せるや、さらに絞め続け確実に殺害しており、強固な殺意に基づく卑劣かつ残虐で執拗(しつよう)かつ冷酷な犯行である。
豪憲君は家族の愛情を一身に受けて健やかに育っていたのに、わずか7歳で生涯を終えさせられ、無限の可能性のすべてを奪われた。豪憲君が受けた恐怖、絶望、悲しみ、苦しみは想像を絶し言葉では言い尽くせない。遺族の怒りや悲しみは限りなく深く、極刑を望むのは自然である。(鑑定人への言動から)被告の反省には疑問の念を持たざるを得ない。
しかし、彩香ちゃん殺害は父親の介護や母子家庭であるがゆえの不安、思うように就職できない不満など、必ずしもすべてを被告の責めに帰すことのできない事情により衝動的・突発的に敢行された。豪憲君殺害当時、被告は自らが彩香ちゃんを殺害した事実を明確に認識していなかったのも事実であり、記憶を保ちつつ連続殺人を行った場合に比べ、悪質性は多少なりとも減じられる。計画性も認められない。学校内の盗みにより高校で停学処分を受けているが前科前歴は無く、矯正教育を試みる余地がある。
これらを総合考慮し、多くの裁判例で示された量刑動向も踏まえると、死刑を選択するほかないと断じることにはちゅうちょを覚えざるを得ず、贖罪(しょくざい)のため全生涯をささげることを強く求める。
なお仮釈放に当たっては、刑事責任が重大であることに加え、内省が表面的にとどまるという性格特性の改善が容易でないことにも十分留意されることを希望する。
・・・『毎日新聞』(2008年3月20日付) 東京朝刊
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