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[ 判決要旨 ]
恵庭OL殺人事件は状況証拠などから総合的に判断すると、限りなく被告人が犯人である可能性は高いが、被告人が犯人であるという確たる直接証拠がなく、冤罪の可能性のある事件でもある。
事件の詳細・・・Brain News Network → シリーズ一括読み → 恵庭OL殺人事件
関連書籍・・・『殺ったのはおまえだ−修羅となりし者たち、宿命の9事件』(新潮文庫/「新潮45」編集部/2002)・・・2007年(平成19年)1月23日、東京地裁で大越美奈子(恵庭OL殺人事件で起訴され、懲役16年が確定した受刑者)が新潮文庫に掲載された記事で社会的評価を低下させられたとして、新潮社社などに計1100万円の損害賠償と文庫の出版差し止めなどを求めた訴訟の判決があった。高野伸裁判長は、計220万円の支払いと名誉棄損に当たる部分を含んだままでの増刷と出版差し止めを命じた。記事は、大越が女性を殺害した犯人であるとともに、女性殺害前に勤務していた会社で窃盗や放火をしたことを示唆する内容。新潮社の月刊誌『新潮45』に掲載されたものを同誌編集部が14年、他の事件記事と併せてまとめ、『殺ったのはおまえだ−修羅となりし者たち、宿命の9事件』(新潮文庫/「新潮45」編集部/2002)というタイトルで文庫化した。高野裁判長は、大越が女性を殺害したことは真実としたものの、窃盗と放火については「警察に確認しておらず、大越が勤務していた会社の従業員の言葉をそのまま信じたに過ぎない」と述べ、名誉棄損を認めた。新潮社側は、消防署に放火事件があったことを確認したと主張。その上で「警察に取材を申し込んでも答えてはもらえないため取材をしなかった」と反論したが、高野裁判長は「大越受刑者が犯人だと疑う根拠としては薄弱。十分な取材ができなかったことは理由にできない」と判断した。・・・『産経新聞』(2007年1月23日付) 2007年(平成19年)10月18日、東京高裁での控訴審で吉戒修一裁判長は、1審・東京地裁判決を変更、出版の差し止めを取り消したほか、賠償額を半分の計110万円に減額した。裁判長は、大越受刑者が勤務先で窃盗や放火をしたことを示唆した内容について「信じるに足る相当な理由は認められない」と判断し、名誉棄損を認めた。一方、出版差し止めについては「出版されて4年以上が経過し、事件も過去のものになっていく。将来的に相当数の増刷は見込みがあるとはいえない」とした。・・・『産経新聞』(2007年10月18日付)
関連サイト・・・恵庭冤罪事件被害者支援会
2003年(平成15年)3月26日、札幌地裁は2000年(平成12年)3月17日に北海道苫小牧市、会社員の橋向香(24歳)が恵庭(えにわ)市北島の市道で焼死体で発見された事件で、殺人と死体損壊の罪に問われた北海道早来町の元同僚の大越美奈子(当時32歳)に対し、懲役16年(求刑・懲役18年)の実刑判決を言い渡した。遠藤和正裁判長は「大越被告による単独犯行と合理的な疑いを差し挟む余地なく認定できる」と述べた。被告側が即日控訴。2005年(平成17年)9月29日、札幌高裁は被告側の控訴を棄却した。被告側が即日上告。2006年(平成18年)9月25日、最高裁で上告棄却。懲役16年の刑が確定した。
被告人の大越は一貫して無罪を主張。大越と事件を直接結びつける証拠はなく、公判では「動機の有無」「殺害方法」「アリバイの有無」―などを巡り、検察、弁護側が激しく対立した。判決は「結婚まで意識した男性を奪われたと橋向に悪感情を抱いたと合理的に推認できる」と動機を認定。橋向が大越よりも身長で約14センチ、体重で約3キロ上回っており「単独犯行は不可能」という弁護側主張については「非力な犯人が体力差を克服して殺害するのは十分に可能」と述べた。犯行時間に書店にいたという主張についても「書店の店員全員や客100人の聞き込みでも目撃者は存在しない」とアリバイは成立しないと判断するなど、検察側主張をほぼ認めた。弁護側は「橋向さんとの関係は良好だった」と動機は存在しないなどと主張。そのうえで「複数の男性が真犯人」と反論していた。大越は道警が逮捕前、6日間で計約57時間、事情聴取したことから「自白を強要された」と道に慰謝料500万円を求める訴えを起こしたが、1審・札幌地裁では「取調官の言動には穏当を欠くものがあった」としながらも「違法ではない」と請求を棄却した。
2003年(平成15年)3月26日、札幌地裁は懲役16年を言い渡したが、その判決要旨は次の通り・・・
【 犯罪事実 】
大越は2000年(平成12年)3月16日午後9時半ごろ〜11時5分ごろまでの間、千歳市、恵庭市またはその周辺で、橋向を殺す目的で、何らかの方法で首を絞め、窒息死させた(殺人罪)。午後11時5分ごろ、恵庭市北島の市道で遺体に灯油をかけて焼いた(死体損壊罪)。
【 死亡、焼損の時期 】
遺体発見現場の近くの住民の供述から、午後11時5分ごろに遺体に火が付けられ、午後11時25分ごろには消えかかっていたと推認できる。橋向は午後9時半から死体焼損が始まった午後11時5分ごろまでに殺害された。
【 携帯電話の移動経路と大越の足取り 】
殺害後に橋向の携帯電話を入手した者は、勤務先や交際相手と知った上で電話をかけた。大越は3月16日午後11時36分ごろ、恵庭市住吉町のガソリンスタンドで給油し、17日午前1時43分ごろ、早来町のコンビニエンスストアで買い物し、自宅に戻った。午前8時20分ごろに出勤するなど、発信記録などから分かっている橋向の携帯電話の移動経路と同様の動きをしていた。
犯人は、被害者の勤務先や交際関係に精通している部内者の可能性が高い。早来町に生活圏があり、千歳市が通勤圏内で足取りが被害者の携帯電話の移動状況と一致し、橋向と同僚男性との交際を知っていた大越が犯人である可能性を疑わざるを得ない。
【 携帯電話の発見 】
携帯電話は同日午後3時5分ごろ、勤務先2階の女子休憩室内のロッカーにあった橋向の上着ポケットから見つかった。着信履歴から、犯人は午後0時36分から発見時間までにロッカーに戻したと推認できる。従業員に見られることなく、2階に上がれる可能性がないとは言えないが、危険を冒してまで、不案内な勤務先で特定が難しいロッカーに戻す理由も必要もない。大越は同日午前に1人で女子休憩室に入り、橋向のロッカーを開けたり、昼食時間帯にも入ったりしたのであるから、ロッカーに戻した可能性はある。
【 ロッカーの鍵 】
同年4月14日、警察は大越の車の検証で鍵を見つけ、橋向のロッカーの鍵であると確認し、差し押さえた。差し押さえ手続きは適法で、捜査官のねつ造はうかがえない。鍵は橋向が携帯電話などと一緒にバッグで持ち歩いていた。殺害後に犯人の管理下に置かれ、罪証隠滅のために順次手放され、鍵だけが大越の車内にあったと合理的に推認できる。誰かが大越を陥れようとしたのなら、鍵だけを車内に忍ばせる一方で、携帯電話をロッカーに戻し、他の遺品を発見が難しい森林内で焼き捨てるというのは首尾一貫せず、不可解である。鍵は殺害に伴い犯人の管理下に置かれ、少なくとも大越の関与を経て車内に放置されるに至ったと合理的に推認できるから、大越が犯人である可能性は極めて濃厚である。
【 遺品残焼物を大越の生活圏内で発見 】
橋向の遺品は、大越が土地勘のある早来町の町民の森内で焼き捨てられていた。警察官は大越を監視していたが、車を使用しないで自宅を抜け出した場合はもちろん、車を使っても監視の目を免れて自宅から約3・6キロの発見現場まで往復し、遺品を焼き捨てることはできる。
【 車内の灯油とライターが使用された可能性 】
遺体及び遺品残焼物の発見現場などで採取された液体、土砂及び残焼物の鑑定の結果、灯油の成分が検出されたが、灯油と灯油型の航空機燃料のいずれかは判別できない。大越は、3月16日午前0時1分ごろ、千歳市内のコンビニエンスストアで赤色ポリタンク入り灯油を購入しているが所在は不明。遺体を焼いた時間帯には、大越の車内に同日購入した灯油とライターがあり、助手席のマットから灯油成分も検出された。3月20日には車の左前輪のタイヤに熱で溶けたような痕跡が見つかった。
購入した灯油について、大越は父親が借りた早来町内の社宅の片づけのための暖房用などと弁解したが、一連の経緯を公判まで隠すなど供述の変遷は顕著で、内容も父親や同僚などの供述との整合性を欠き、不可解さがある。灯油は遺体を焼くのに使い、車の助手席に戻した時にマットに付着し、またタイヤは遺体を焼いた火で変質した可能性が高く、弁解は信用できない。車にあった灯油とライターが遺体の焼損に使用された可能性は高い。
【 殺害動機 】
大越は、交際していた同僚男性への執着心や、この男性と交際するようになった橋向への対抗意識もなかったと弁解する。しかし初期捜査の段階で、自分と橋向の立場を隠した上、同僚女性に対し警察での事情聴取の内容に探りを入れ、元交際相手に対しても自分と男性に関する相談事を口止めするなど捜査妨害とも受け取れる言動をし、橋向に掛けた電話の回数という重大な点で、供述を顕著に変えている。
男性と元交際相手、友人らの供述との矛盾や、客観的な電話の発信記録とのずれもあり、嫌がらせ電話も殺害後に突然なくなったのは偶然過ぎるなど、ごまかしの色彩が強い。不自然かつ不合理で信用できず、また一連の大越の言動から、結婚まで意識した男性を奪われ、悪感情を抱いたことを合理的に推認できる。殺意に発展することは十分にあり得る。
【 大越単独の殺害可能性とアリバイ 】
橋向は、大越より身長で約14センチ、体重で約3キロ上回り、腕力的にも強かったと考えられるが、殺害方法や被害者の抵抗次第では、非力な犯人が体力差を克服して無傷で殺害することは十分に可能である。遺体は、人目につきやすい道路脇に焼き捨てられており、遺体を運ぶ力に乏しい非力な犯人の単純犯行であっても矛盾はない。
殺害の具体的な場所を特定できるだけの証拠はない。首を絞めたことによる窒息死の場合に見られる失禁、鼻や口などからの出血の痕跡が大越の車内にはないが、これらの痕跡は必然的ではない。痕跡が残らないことも十分にあり、車内で殺害されなかったとはいえない。
遺体発見現場付近で大越被告の車のタイヤ痕や被告の足跡が見つからなかったのは、遺体発見直後に車で来た付近の住民などのタイヤ痕や足跡で消失または判別不能となったためである。また、大越の指紋が検出されなかったのは、犯跡隠ぺいのためふき取ったり、検出が不能だったためとすれば、それぞれ合理的に説明可能である。
遺体発見現場から、大越が同日午後11時36分ごろまでに恵庭市住吉町のガソリンスタンドまで行くことも可能。大越は橋向と勤務先を出て駐車場で別れ、恵庭市住吉町の書店で本の立ち読みなどをしたとアリバイを供述するが、書店員や買い物客からの聞き込み捜査の結果、目撃者はなくアリバイは成立しない。
【 結論 】
橋向の携帯電話の移動経路と大越の足取りとの整合性▽携帯電話をロッカーに戻した可能性▽ロッカーの鍵が大越の車内にあったこと▽大越単独による実行可能性▽殺害の動機――などを総合すると、殺害の時刻や場所、態様にある程度の幅を残さざるを得ないが、大越が単独で橋向を殺害し、死体を焼き捨てたことは合理的な疑いを差し挟む余地なく認定できる。
【 量刑理由 】
死因や死体焼損から推認するに冷酷非道である。動機は、自分が社内恋愛で結婚まで意識した交際相手と付き合うようになった橋向に対する嫉妬や憎悪であると合理的に推認できる。
橋向が、交際相手と大越との関係を知らずに恨みをかい、仕事上で頼れる先輩として気遣っていた大越の手にかかった無念を言い表す言葉はない。遺族への慰謝の措置は皆無である。証拠隠滅工作、公判での態度なども考えると刑事責任は誠に重大である。大越は、恋愛がかなわなかった女心の悲哀や苦悩では同情の余地もあるが主文の刑が相当である。
・・・『毎日新聞』(2003年3月26日付/2003年3月27日付/2005年9月29日付/2006年4月27日付)
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