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[ 決定要旨 ]
2003年(平成15年)7月1日夜、長崎市で中学1年の男子生徒(当時12歳)が大型電器店から幼稚園児の種元駿ちゃん(4歳)を連れ出し、そこから4キロ離れた立体駐車場の屋上から全裸にして20メートル下に突き落として殺害した。9月29日、長崎家裁はこの男子生徒を児童自立支援施設へ送致する保護処分を決定した。
児童自立支援施設・・・法務省管轄で矯正教育が目的の少年院とは違い、児童福祉法上の支援をするために各都道府県に設置が義務付けられている厚生労働省管轄の福祉施設。不良行為をしたり、家庭環境などに問題がある少年を入所させる。また、少年を保護者のもとから通わせて、職員が生活を共にし、生活・学習の指導などを行うケースもある。国立、民間も含め全国に58施設ある。感化院→少年教護院→教護院→児童自立支援施設と名称が変わってきた。
事件の詳細・・・長崎新聞 → 長崎4歳児殺害事件/西日本新聞 → 長崎4歳児殺害事件
2003年(平成15年)9月29日、長崎家裁での児童自立支援施設へ送致する保護処分決定の決定要旨は次の通り・・・
第1 非行事実 略
少年は平成15年7月1日午後7時20分ころ、長崎市内の大型電器店2階店内の展示試供ゲーム機で遊んでいた被害者(当時4歳)に「お父さんとお母さんは用事があって先に行ったから追おう」などと甘言を用いて誘惑し、同市内の中心街から少し離れた立体駐車場まで連れ去り、未成年者を誘拐した。同日午後9時15分ころ、立体駐車場屋上で殺意をもって被害者を後ろから両手で抱き上げ、手すり越しに突き落として約20メートル下の駐車場1階東側通路に転落させ、被害者を頭部及び顔面打撲による脳障害で死亡させて殺害した。
第2 処遇の理由
1 事案の特徴 本件は、12歳の少年が幼児に暴行を加えようと考え、事前にはさみを購入して被害者を言葉巧みに誘拐、被害者の性器に暴行を加えたうえで防犯カメラに気づくや立体駐車場の屋上から突き落として殺害したという事案である。殺害は計画的ではないが、被害者の生命を奪った結果は重大であり、被害者が受けた苦痛や恐怖感、4歳で生涯を終えることとなった無念さは計り知れない。遺族の少年、両親への感情は峻烈で、被害者を失った悲しみは大きい。また、学校関係者や幼い子供、思春期の子供をもつ親にも大きな衝撃を与えた。12歳の少年がこのような発想をするに至った原因や残酷、非情な行為ができた理由、その際の精神状態については、少年の供述から明らかではなく、処遇の決定に当たっては原因等の解明が不可欠である。
2 少年の資質等
(1)少年には、次のような性格ないし行動傾向が認められる。
幼稚園のころから教師の注意や母の叱責に過剰に反応して混乱状態となり、かんしゃくを起こしたり、学校や家から逃走するなどしている。補導後も、鑑別所職員の注意に号泣し「こんなとこ逃げ出してやる」などと言って扉を叩いたり本を机に打ちつけたりしている。本件非行時にも、防犯カメラに気づいて動転し、逃げ出すことのみを考え、邪魔になると考えた被害者を突き落としてすばやく非行現場から逃走しており、少年は外的刺激を処理する能力が限定され、低刺激で対処不能、無規制状態になり、衝動的で周囲の予想できない反応を示す傾向が見られる。
本件非行時、泣き叫ぶ等した被害者を見ても、不憫に思った様子はない。非行後も、直前まで被害者と一緒にいた店に忘れ物を取りに行き、非行現場の駐車場前を通って帰途につき、帰宅後は普段通りの生活を続けた。鑑別所入所後も、被害者や遺族の心情を思いやることができないなど、対人的共感性の乏しさが顕著である。
他人とのかかわり方は、小4のころから幼児とはよく遊んだが、同年代の友人とは、興味のあることについて少年が一方的に話すのみで、他人との間に相互的情緒的交流をもつことができず、対人的コミュニケーション能力に問題がある。
小学校時代から悩みを打ち明けあうような親しい友人がいないが、孤独感や疎外感を感じている様子はない。鑑別所入所前は、母親と過剰ともいえる緊密な関係だったのに入所後、長期間面会できなくても寂しさや不安を強く訴えることはなく、他の少年との接触がなくても、孤立感や孤独感を感じている様子はないなど対人的つながりを求める志向が希薄である。
少年は小3のころから男性性器に強い関心をもっており、この関心は払拭しようしても払拭できないと供述している。
小学校のころから母に叱責されることを極端に恐れ、遠方の祖父母宅まで逃げたり、逃げたまま午前3時に補導されるまで帰宅しなかったことがある。鑑別所入所後も、母には自分が男性性器に興味を持っていること等を知られることを恐れている。
(2)コミュニケーションに相互性はなく、適切な仲間関係の樹立ができず、情緒的表出も不適切である。少年には男性性器へのこだわりに伴う奇異な行動パターンが見られ、常同的で限定された異常な興味のパターンにとらわれる傾向がある。このような資質に、少年には幼少のころから手先の不器用さや運動機能の発達の遅れが見られ、言語性知能と動作性知能の間に極端な差があること、精神病性障害は認められないこと、表出言語・受容言語や認知能力の発達において臨床的に明らかな全般的遅延はなく、2、3歳ころの包括的発達能力にも障害はないこと、少年には通常の言語障害はなく知能も低くないこと等から判断すると、広汎(こうはん)性発達障害の一亜型であるアスペルガー症候群であると解するのが相当である。
3 背景事情及び動因
(1)少年のアスペルガー症候群が本件非行に影響していることは確かだが、直接本件非行に結びつくものではない。少年には、幼稚園時代から他者との意思疎通に難があり、さまざまな特異行動が見られたにもかかわらず、家庭と学校が問題意識を共有せず、少年の発達障害に応じた指導に当たれなかった。母は少年の運動能力が劣ることや手先が不器用であることを気にして幼児期から特訓をしたり、小学校入学後はほかの児童に馬鹿にされないよう付きっきりで勉強を教え、寄り道をすると厳しく叱責したが、このような父母の養育態度は少年が同年代の子どもと交友する機会を減少させ、少年の相互的コミュニケーションの拙さ、共感性の乏しさに拍車をかけた。
(2)少年の問題性について適切な措置が講じられないまま、少年は中学生となり、思春期を迎えた。小学校時代は教師や同級生が少年の特異性を認識して優しく接するなど特別な配慮をしていたが、中学入学で特別な配慮を受けることがなくなるなど環境が大きく変化した。家庭では父母間の争いが続いた。本件非行のころ、少年はかなりの精神的負荷を負っている状態にあり、非行当日、少年は帰宅時間が遅れて日頃から極端に恐れていた母の叱責を受けると思い込み、緊張状態のまま家を離れた。
少年は、男性性器への関心と家庭環境で増強された他人への共感性の乏しさがあいまって被害者に暴行。防犯カメラを発見したことで動転し、衝動的行動に出やすいという資質と共感性の乏しさがあいまって被害者を屋上から突き落とすという行為に及んだと考えられる。
(3)少年の行為はある意味で性的色彩の強いものだが、幼児や小児にみられる心理的側面での性の発達に伴って生じる性器への関心が強迫症状として発現したものである可能性が高い。
4 処遇選択の理由
(1)少年の特異な行動傾向や状況認知、課題処理の仕方が独自のものであることを踏まえ、社会的に望ましい行為や望ましくない行為はどのようなものであるのか、一つ一つ丁寧にねばり強く教育していくことが不可欠だ。少年は現在思春期にあり、今後、青年期に移行するまでの間に精神的にも身体的にも著しい変化、成長を遂げることになるから、成長に伴い、性的嗜好や関心、行動にどのような変化があるかを慎重に見極める必要がある。
また、性的執着やこだわりが、衝動的に他人への攻撃として表れる危険があるので今後の処遇、特に集団処遇に際しては細心の注意が必要だ。さらに、少年と父母との親子関係が本件非行に与えた影響は大きく、父母は少年や家庭での問題点を真剣に考え、遺族にもできる限りの謝罪の措置を講じる必要があるのに、少年や遺族への対応は十分ではない。
少年の更生には父母の協力が不可欠なことを考えると、父母には、少年の障害を十分理解させ、社会復帰に向けて家庭の保護機能が円滑に動くよう指導、助言するとともに、親子関係の調整を図っていく必要があるが、これまでの親子関係、少年への対応の仕方などからすると処遇機関が父母の協力を得るにはかなりの困難が予想される。父母の努力が得られるとしても、関与の時期や方法は少年の状態を見極めながら慎重に検討する必要がある。
少年の処遇は、児童自立支援施設に収容し、対人関係の安定した規則正しい環境のもとで児童精神科医や発達障害児の療育の専門家等の援助を受けながら、少年に対応可能なプログラムによる特殊教育課程を履修させるのが相当である。収容期間は、裁判所に決定権限はないが、少年が再び本件のような非行を繰り返すことがないよう、少年の性的嗜好や関心、行動の変化を見極め、社会的に望ましい行為とそうでない行為を理解させ、父母の関係調整により、少年に安定した帰住先が整うまでの間、継続して収容することが望ましい。少年と父母への対応の困難さや性的嗜好、関心、行動の変化を見極めるには相当時間がかかると予想されることからかなり長期間にわたる収容が必要である。
(2)少年は対人関係を良好に構築できない可能性が高いことや性的執着が現在も持続し、それを指摘されるや不穏な行動を示すなど、今後も衝撃的な行動に及ぶ可能性が高いこと、今後心身共に不安定な時期を迎えるのに加え、性的欲求や性衝動という未知の問題に直面することになり、それによって男性性器への執着が変化する可能性があり、予断を許さない状況にあること、これまで、少年は些細なことで混乱し、その場から逃走するという方法で対処する傾向があること等からすると、開放処遇を原則とする児童自立支援施設においては極めて異例な措置ではあるが、今後1年間については特に日数を限定することなく強制的措置を許可する。
強制的措置が、少年の行動の自由を制限する強力な手段であり、日数を限定しないことが極めて異例な措置であることにかんがみると、期間の決定は、処遇効果を見ながら慎重になされるべきであるから、現段階においては許可期間を1年間とし、1年後に少年の心身の状況を慎重に見極めたうえ、改めて審査するのが相当である。
・・・『朝日新聞』(2003年9月29日付)
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