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[ 判決要旨 ]
2007年(平成19年)4月17日午後7時50分ころ、伊藤一長(いっちょう)・前長崎市長(61歳)が銃撃されて翌18日に死亡した事件で、殺人、公選法違反(選挙の自由妨害)などの罪に問われた長崎市風頭町、元暴力団幹部の城尾哲弥(当時60歳)の判決公判が2008年(平成20年)5月26日、長崎地裁で開かれ、松尾嘉倫(よしみち)裁判長は、求刑通り死刑を言い渡した。起訴状では、城尾は伊藤前市長が2007年(平成19年)4月の市長選に出馬表明したのを機に殺害を計画し実行した。検察側は、知人の建設会社への融資など市に対する要求が受け入れられなかったことへの「逆恨み」が犯行の動機と主張。「計画的犯行で、自由と民主主義の根幹を揺るがす重大犯罪」と指摘していた。これに対し、城尾は「一騒動を起こし、市に対する不満を公にしようとしただけの突発的な犯行」と計画性を否定し、死刑回避を求めていた。 弁護側が控訴。2009年(平成21年)9月29日、福岡高裁で無期懲役判決。2012年(平成24年)1月16日、最高裁で検察、弁護側双方の上告を棄却、無期懲役が確定。
事件の詳細 → 長崎新聞 → 伊藤長崎市長射殺事件
長崎地裁で死刑を言い渡した判決要旨は次の通り・・・
◇争点に対する判断
殺害動機についての判断
被告は65年ごろ、暴力団松本組(95年4月に「水心会」と改称)組員となり、その後、水心会若頭になり、次期会長を期待された。しかし、次期会長としての器を問われ、02年5月ごろ、会長代行とされて実質的に降格となり次期会長就任の見込みはなくなり配下組員もいなくなるなど経済的に体面を保つことが困難となっていた。
被告は長崎市の建設会社社長を言いなりにさせ、金を引き出すなどして利用してきた。01年末、同社は資金繰りに窮し、被告らは02年1月、長崎市の中小企業連鎖倒産防止資金融資制度を利用し高額の融資を受けようとしたが受けられず04年1月、事実上倒産した。
同社は03年1月、長崎市発注の歩道新設工事の入札に参加し、談合を持ち掛けたが失敗し工事は別の業者が落札した。03年2月24日、被告は同工事の現場で運転手を後退で誘導し、自分の自動車の後輪を工事で生じた陥没部分に落下させる事故を起こした。被告は03年7月、長崎市に対し、業者が市に提出した事故報告書には、被告が故意に事故を起こしたように記載され虚偽であるなどとして市が間に入るよう要請した。市を交え複数回賠償交渉がもたれたが話し合いはつかなかった。
被告は本件融資制度を利用しての活動資金獲得や本件車両事故による賠償金獲得にも失敗するなどして自暴自棄となった。市の対応によって、市への影響力を獲得、行使しようとしたもくろみも実現できず市への憤まんを募らせ、その首長である伊藤を逆恨みした。
同人の市長選への出馬表明を知るや、同人を殺害し、当選を阻止することで、同人及び市への恨みを晴らすとともに、世の中を震かんさせるような大事件を引き起こすことによって自らの力を誇示し、暴力団幹部としての意地を見せようと考えたと推認できる。
殺意発生の時期・内容(計画性)
被告が伊藤殺害を決意したのは、同人が市長選への立候補を表明し、そのことを知った直後ごろと解するのが相当であるし、07年4月2日ころから同人の動向をうかがうなどしていたのもそのための準備であり、犯行は計画的で殺意は強固であったと認められる。
◇量刑の理由
1 本件の概要と特徴
被害者には被告から命を奪われなければならない理由は何一つなかった。まさに暴力団による銃器犯罪の典型であるとともに行政対象暴力として類例のない極めて悪質な犯行である。暴力によって被選挙人の選挙運動と政治活動の自由を永遠に奪うとともに、選挙民の選挙権の行使を著しく妨害したのであり、民主主義の根幹を揺るがす犯行というべきである。民主主義社会において到底許し難い。
2 犯行の経緯、動機について
被告が被害者を逆恨みするようになった経緯は自己中心的で、暴力団として生きてきた被告ならではの独自の論理に基づくというほかない。動機は身勝手きわまりなく、強く非難されるべきで酌量の余地は全くない。
3 犯行態様について
犯行は計画的で強固な殺意に基づいて敢行されたことは明らかである。背後の至近距離から2発の銃弾を被害者の背中めがけて撃ち込み、死亡させた犯行態様は死に至らしめる確実性が高く、冷酷かつ残忍で、凶悪であるし卑劣この上ない。県下有数の繁華な場所で敢行されて通行人など付近にいた人々をも巻き込みかねない危険もあった。
4 本件犯行の結果について
被害者は約12年間、長崎市長を務め、被爆都市の市長として世界に平和を訴え続けてきたし、暴力団などによる行政への不当要求の排除にも尽力してきたのであり、多くの市民に支持されてきた。選挙期間中、志半ばにしてこの世を去らなければならなかった無念さは計り知れない。家庭人としても良き夫、良き父親として家族の支えになっていたのであり遺族は精神的支柱を失った。妻の処罰感情は峻厳を極め、娘らも同様に厳しい被害感情を露わにしている。
現職市長が暴力団の凶弾に倒れる事態は暴力団の無法さ、銃器犯罪の恐怖を改めて全国に知らしめることになり、社会全体を震かんさせた。各地方自治体職員などの不安を増大させることにもなった。地域社会ひいては社会一般に及ぼした影響は重大であり、同種事犯の再発防止を求める社会的要請は非常に大きいと考えられる。
5 犯行後の被告人の態度など
取り調べでも市に不正があるなどと主張して自らの行為を正当化し、公判廷では新たな弁解を展開して、責任軽減に汲々としており、真摯(しんし)に反省しているとは認められない。
6 更生可能性について
被告は人生の大半を暴力団構成員として活動してきた。服役前科6犯を含む前科9犯がある。殺人未遂などの罪で懲役4年に処せされたもの(初服役)も含まれ被告の人命軽視の姿勢は早い段階からみられた。銃器の所持、使用に対する規範意識も鈍麻している。こうした暴力的犯罪傾向は、度重なる服役にもかかわらずむしろ深まっており、固着している。矯正、改善は困難極まりない。
7 一般予防の必要性
犯行の罪質などからすれば、一般予防の必要性は非常に大きい。
8 被告のために有利に斟酌すべき事情
被告は、被害者およびの遺族に謝罪の意思を表明している。年老いた母やまた幼く病弱な息子がいて、被告もその息子の将来を案じていた。これらは被告に有利に斟酌できる。
9 被告の刑事責任
以上のとおり被告の刑事責任は極めて重大であり、酌むべき事情や、死刑が人間の生存する権利をはく奪するものだけに、その適用には特に慎重を期すべきであるところ、本件では殺害された被害者は1名にとどまることなどを十分考慮しても、本件犯行の罪質、結果の重大性、遺族らの処罰感情、犯行動機の不当性、犯行態様の悪質さ、被告の犯行後の情状や犯罪性向の根深さ、一般予防の必要性の高さなどからして、被告に極刑を科すことはやむを得ない。
◇主 文
被告を死刑に処する。
『毎日新聞』(2008年5月26日付)
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