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埼玉県本庄市保険金殺人事件

[ 判決要旨 ]

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2000年(平成12年)3月24日、埼玉県本庄市の金融業の八木茂(当時50歳)、小料理店従業員の武まゆみ(当時32歳)、スナック従業員のアナリエ・サトウ・カワムラ(当時34歳)、元金融会社勤務の森田考子(たかこ/当時37歳)の4人が逮捕された。逮捕容疑は虚偽の婚姻届を提出した疑い、つまり公正証書原本不実記載容疑だった。

この事件は1999年(平成11年)7月11日に『産経新聞』が「薬物?で保険金殺人 知人3人に十数億 容疑の金融業者 あすにも家宅捜索」という記事を報じてから新聞やテレビ、週刊誌の記者らが押し寄せ、逮捕直前の2000年(平成12年)3月23日まで8ヶ月間、毎晩のように八木が経営するパブや居酒屋で疑惑を否定する「有料記者会見」(1次会をパブで6000円、2次会を居酒屋で3000円、2次会の取材が2時間以上になると追加料金として2000円を請求)を開いてきた。その会見回数は203回にも及んだが、報道陣らが支払った金額は1000万円以上になったと言われている。

この記者会見で八木は「毒物は1000%出ません」と答えていた。1990年(平成2年)から1994年(平成6年)にかけ、アナリエの偽装結婚相手だった元工員の佐藤修一(45歳)に保険を掛け、1995年(平成7年)6月3日ごろ、本庄市にあった佐藤宅で主に武がトリカブトを混ぜたあんパンを食べさせて殺害した。6月14日、佐藤は埼玉県行田市内の利根川で遺体となって発見された。死因は水死と見られ県警は自殺と断定した。7〜8月にかけて保険金3億200万円を騙し取った。さらに、1997年(平成9年)から1998年(平成10年)にかけて森田考子が元パチンコ店員の森田(旧姓・関)昭(当時61歳)と、アナリエが元塗装工の川村富士美(当時40歳)とそれぞれ偽装結婚した上、2人に酒とアセトアミノフェンが入った風邪薬を長期間に渡って大量に飲ませ、1999年(平成11年)5月29日に森田を殺害。翌30日に川村を重症にした。森田には1億7600万円、川村には9億6700万円の生命保険金がかけられていた。

2000年(平成12年)4月15日、八木ら4人が公正証書原本不実記載容疑の件で起訴された。検察の真の狙いは保険金殺人で、厳しい取調べに対して、八木は頑強に全面否認を続けたが、森田は協力的で弁護士もいらないと言った。アナリエはやむなく偽装結婚を認めた。10代から八木の愛人だったと言われる武まゆみは当初、黙秘を続けたが、4月27日の勾留理由開示法廷で殺人未遂容疑を全面的に認め、涙ながらに謝罪した。5月8日、八木、武、アナリエの3人が殺人未遂の罪で追起訴された。罪状は元塗装工の川村富士美にかけた保険金を詐取するため殺害を図ったとされる件だった。森田はこの件では関与の度合いが薄いとして処分保留とされた。5月30日、八木ら4人は元パチンコ店員の森田昭を殺害し保険金を詐取しようとしたとして、殺人罪で追起訴された。11月21日、八木ら4人は元工員の佐藤修一殺害容疑で逮捕された。12月13日、八木ら4人は殺人罪で追起訴された。

2002年(平成14年)2月1日、さいたま地裁はアナリエ・サトウ・カワムラに懲役15年、元金融会社勤務の森田考子に懲役12年を言い渡した。判決理由で裁判長は金融業の八木茂を主犯と認定した上で「八木被告の下、森田被告らが役割を分担した組織的犯行で、保険制度を悪用し反社会性が強い」と述べた。2月28日、さいたま地裁は武まゆみに対して、「史上まれな凶悪事件で、極刑に処すべきものと考えられるが、矯正の可能性も認められる」として無期懲役の判決を下した。10月1日、さいたま地裁は八木茂に対して「犯罪史上例を見ない巧妙で悪らつな犯行」と厳しく非難し、死刑を言い渡した。2005年(平成17年)1月13日、東京高裁で控訴棄却。即日、弁護側が上告。2008年(平成20年)7月17日、上告棄却で死刑確定。

2002年(平成14年)10月1日、さいたま地裁は八木茂に対し死刑を言い渡したが、その判決要旨は次の通り・・・

一、事実の要旨(略)

一、争点に対する裁判所の判断

弁護人はトリカブト事件につき、武まゆみ受刑者の証言は検察官の脅迫や量刑取引による偽りの記憶で、森田考子、アナリエ・サトウ・カワムラ両受刑者の証言も武証言に沿う内容に作り上げられたもので信用できず、八木被告は無罪だと主張する。

しかし三受刑者の証言は、不正確さや年月の経過に伴う記憶の低下などの問題点はあるものの全体としてみれば極めて具体的かつ詳細で迫真性に富んでいる。

特に武受刑者の証言は、死亡した佐藤修一さんの臓器からトリカブト毒が検出された旨の鑑定結果や、採取場所として特定した長野県内の別荘地で現実にトリカブトの自生が確認されたことなど、犯行の骨格を構成する重要な部分を裏付ける客観的な証拠が存在する。三受刑者の証言が、主要な場面における一見極めてささいと思われる部分で合致していることにも照らすと、その信用性は十分で、被告がトリカブト事件を犯したことは明白だ。

弁護人は風邪薬事件について、八木被告の指示で森田昭さんと川村富士美さんに風邪薬や解熱鎮痛剤を毎日与えていたとの武受刑者証言は信用できず、薬剤は大量に服用しないかぎり死に結び付く障害を起こすことはありえず、森田昭さん死亡などは薬剤でなく、二人が日ごろ大量に飲酒したことが原因とし、自由意思で飲む以上、酒を勧めた者が犯罪に問われないと無罪を主張する。

しかし死因などは、多くの薬剤を長期間服用し連日高濃度のアルコールを飲み、体の抵抗力が低下して菌感染したことなどにあり、常用の数倍の薬剤を健康食品と偽り長期間のませた上、酒を連日飲ませると死の危険があり、殺害の実行行為となりうるから、八木被告が風邪薬事件を犯したことは明白である。

一、量刑の理由

本件は、被告が武まゆみ、森田考子、アナリエ・サトウ・カワムラの三受刑者と共謀の上、佐藤さんをトリカブトを用いて殺害し、三億円余の生命保険金などを詐取した事案。

次いで、森田昭さん、川村さんの二人を高濃度のアルコールを摂取させるとともに風邪薬を大量に摂取させるなどして森田昭さんを殺害したが、川村さんについては未遂に終わった事案。および、被告が事件の容疑者としてマスコミに取り上げられていた当時、新聞記者の態度に腹を立てて顔面を殴り、傷害を負わせた事案から成る。

まず、トリカブト事件についてみると、被告は約二年間にわたって、武受刑者らに指示して、連日明け方まで飲酒させたりしたが、佐藤さんが一向に健康を害する気配を見せないことに業を煮やした。長野県の山中に出かけて猛毒のトリカブトを採取。

事前に共犯者との間で謀議を尽くした上、トリカブト入りあんパンを食べさせて殺害し、死体を利根川に遺棄。自殺と見せ掛ける仮装工作をして保険会社のみならず、捜査機関をも欺いて三億円余の生命保険金などを手にした。

犯行は多額の保険金を入手することを動機としており、殺害の態様も、長期にわたり衰弱させた被害者に致死量以上のトリカブトを仕込んだあんパンを食べさせた上、布団をかぶせて押さえつけ、苦しみ抜かせて絶命させるなど、極めて冷酷かつ残忍極まりない。

被告の店で飲酒することが数少ない楽しみの一つであるという孤独な境遇にあったために、保険金殺人計画の標的とされた被害者には何らの落ち度もない。元来、人のよい性格から被告らの術中に陥り、命を奪われた上、自殺に見せ掛けるよう利根川に投棄され、無残な姿で発見された被害者の味わった苦痛と無念さは筆舌に尽くしがたい。

被告は被害者の死後、遺族に偽の遺書を示し、借金と末期の胃がんから自殺したなどと信じ込ませ、平然と葬儀に参加するなどしており、最愛の息子の命を奪われた上、欺かれた遺族の怒りは極めて強く、被告に極刑を望んでいる。

風邪薬事件は、トリカブト事件で味を占めた被告が、独身で近くに身寄りのいない森田昭さん、川村さんの二人を新たな標的と定め、それぞれ森田考子、アナリエ両受刑者と偽装結婚させた。

受取人をこの二人とする多額の生命保険契約に加入する一方、病死に見せ掛けて殺害するため、一年近くにわたって連日高濃度のアルコールを摂取させるとともに、健康食品と偽って市販の風邪薬などを大量に服用させた結果、森田昭さんについては殺害に成功したが、川村さんについては同人が病院に駆け込み失敗に終わった。

誠に人を人とも思わぬ鬼畜の所業というべきだ。薬品関係の書籍を読みあさり、風邪薬やアルコールを凶器として使用し、じわじわと殺害しようと計画するなど、犯罪史上に例を見ない巧妙で悪らつな犯行。森田昭さんは被告らから勧められるまま連日これらを摂取し続け、徐々に衰退して低栄養状態に陥り、肺炎を起こして死亡した。

命を取り留めた川村さんも、連日嘔吐(おうと)を繰り返すなど苦痛を味わった揚げ句、コーヒーに覚せい剤を混ぜた物を飲まされるなどしたため、幻覚、幻聴の症状で警察に保護され、入院を余儀なくされたのであり、保護されなければ佐藤さん、森田昭さんと同様に命を落とす危険は高かった。

被告は犯行の手法を自ら発案。対象とする相手をも選定する一方、三人の女性共犯者には多額の分け前を餌に巧みに犯行に誘い込み、自らはほとんど手を汚すことなく、殺害行為の大部分を共犯者に行わせたもので本件の首謀者。被告の存在なくして本件が敢行され得なかったことは明らか。

被告はトリカブト事件で入手した約三億円もの生命保険金について、根拠不明の貸金と相殺するなどと欺き、共犯者らに百万−三百万円程度の分け前を与えたにとどまり、共犯者にすらこうかつな態度を取っており、反社会的性格や犯罪性向は著しく、刑事責任は共犯者らと比較して格段に重い。

被告は犯行がマスコミに取りざたされるようになるや、厚顔にもマスコミ関係者を、経営する飲食店に集め、連日、有料で記者会見して無実を訴えるなどし、さらに共犯者が公判廷で犯行状況を子細に証言し、犯行が明らかになった今日においても被害者、遺族に対する被害弁償はおろかひと言の謝罪の言葉すら口にしていない。

トリカブト事件では、被害者は利根川に飛び込んで自殺したなどと弁解。虚言を呈しあくまで刑事責任を回避しようと画策しており反省、悔悟の情はみじんもうかがうことはできない。

刑事責任はあまりにも重大で罪刑の均衡、一般予防の見地からも被告を極刑に処することはやむを得ない。

・・・『Kyoto Shimbum』(2002年10月1日付)

事件関係者の著書に、武と偽装結婚させられた上に3億2300万円の保険に加入させられ殺されかけた建脇保(当時48歳)の 『虫けら以下 本庄保険金殺人事件の軌跡』(太田出版/2001)/ 武まゆみの 『完全自白 愛の地獄』(講談社/2002)がある。

関連サイト・・・News Web Japanバックナンバー埼玉保険金殺人事件を読み解く

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