もののけの姫
ふと気がつくと夜だった。生ぬるい風が頬をかすめていく。ここはどこだろう。私は一人だ。不安になって私はあたりを見回した。目の前に川が流れていた。暗い夜の川。大きな柳の木が点々と植えられていて私の傍らにもあった。
私はさっきから川端にしゃがんでいたのだ。
ふりかえると目の前を大きな土蔵の白壁が視界をふさぐようにそびえたっている。月の光りがあたってその壁の青白さが印象的だった。夜なんだわ、、、、と又独り言を言って待てよと思った。
ーなんだわって今自分で言ったな。ー
もしやと思い胸に手を当ててみると膨らんでいた。どうやら私は女性に変身しているらしい。いつしたのだろう。思い出せない。記憶がないなんてどういうことだろう。しかも自分が知らないうちに女の体に変わるなんて、、、怒りがわいてきた。犬に文句言ってやろうと思う。その時胃がキューンとしめつけられた。お腹がすいているのだ。
ー何か食べたい。ー
食べる物のあるところへ行かなければと思い。川端を離れて明かりが見える方へふらふらと歩いた。
川沿いの通りには木造の日本家屋が並んでいた。古い作りの商家や旅館。これはどう見ても時代劇のセットだ。目の前の商家の開け放った間口には大きな蝋燭が燭台に何本もつけられていて着物姿の手代や番頭が忙しそうに働いている。夜になって店をしめようとしているようだ。男の頭にマゲが乗っている。ここはどうやら江戸時代の町のようだ。物珍しくて通りを行きかう着物にちょんまげをつけた人の姿を見てみた。
そのうちに又胃がシクシクしはじめた。お腹がすいた。どこかでご飯を炊いているらしい。匂いがする。煮しめの匂いも、、、ああ、、、たまらなくお腹がすいてきた。
「おい、もうすんだかい。」
不意に後ろから声をかけられた。振り返ると犬がいた。縞柄の着物を着流してなぜか三味線を持っている。
「用を足したらまた回るぜ、、、。」
手に持ったバチをこめかみに当ててマゲを直している。ちょっといなせなお兄さんといった感じだ。商売商売と小声でつぶやくように言っている。
その時私も着物姿であることに気がついた。袖が少し擦り切れている。くたびれた木綿のものだ。色はピンク色。頭も日本髪に結ってはいるがかんざしが一本ぶらさがっているきりでどう見てもうらぶれた芸人にしか見えないだろう。
「さ、、、回ろう。」
そう言って犬が三味線を弾きながら歩こうとするので私はちょっと待ちなさいよと大声を出した。
「一体どうなっているのよ。これは、、、、。」
お腹がすいて胃が痛む。しかもこんな格好させられて情けなくもあった。
「一体どうなっているっていうけど これはあんたの夢の中だろう。」
しょうがねえなという風に犬が言った。犬の表情にも面白くないものが浮かんでいる。
「どうして江戸時代なのよ。ここは、、、。」
「知らねえよ。そんなことは。あんたがテレビで時代劇ばっかり見ているからこんな変な夢みるんじゃねえのか。」
冗談じゃない。私は時代劇なんていい年になってから一度も見たことはないのだ。犬に言ってやりたかったが心の中から何かが湧き出てきて少し状況がつかめてきたような気がした。この町の夜風がしみこむように今自分が眠っていてここが夢の世界なのだと理解できるようになってきたのだ。
夢の世界、、、、しかも江戸時代。着物姿の女性の私。これは一体どんな現実が頭の中で混交して潜在意識に働きかけた結果なのだろうか。
考えても無駄だろうと思う。それにしてもお腹がすいてしょうがない。お腹がすく夢はよく見る夢で減量中は特にしょっちゅうといっていいくらいだ。
「ねえ、お腹すいた。」
「わかっているさ。だからこうやって門付けして回っているじゃねえか。」
犬がぼそりと言った。犬は私の夢の中でどうやら私につきあわされているらしい。普段は私に面倒見られているので夢の中では逆に私の面倒を見なければいけないのだろうか。そんな法則があるのかも知れないなどと思った。
「さっきから何度も回っているのに誰もお金投げてくれないじゃない。」
私は文句言った。犬はふくれっつらをしてうつむいている。
「だいたい、何よ。こんなさびしい所ってある。この川端の端から端まで歩いたって何件もお店もないじゃないの。」
「そういうけど この街道筋じゃあたりじゃここが一番賑やかな場所だぜ。」
犬は困ったような顔をして三味線の調子を揃えている。腕は確かだ。おまえの唄が下手すぎるんじゃないかよと奴の思念が微細なレベルで発信されたのを私は逃さなかった。
このおーと怒りがわいて犬の目をにらみつける。犬は私の顔を見てちょっと気色ばんだがすぐに目を伏せて折りたたんだ手ぬぐいで三味線の棹をすっと拭いた。
さびしい宿場町で二人して食うに困って門つけをしているなんてなんでこんな夢を私は見ているのだろう。情けないやら腹立たしいやらでますます胃が痛くなりそうだった。どうやら犬も空腹らしい、どこからかご飯の炊ける匂いがするたびに鼻がひくひくと左右に15cmくらい移動している。
そのうちにじわじわと私の頭の中で状況が把握できてきた。どうもこんな貧乏ったらしい夢を見ているのはすべて私の責任でなおかつ犬はしぶしぶつきあってくれているらしい。二人してつまり私の夢の中にいるのだ。犬に八つ当たりをしてはいけないと思った。
「ああ、、、情けない。それにしてもどうせ夢なんだからもっと景気のいい夢を見ればいいのにね。」
私が半分べそかきながらそう言うと犬は苦笑いしながら、夢なんてのはそんなもんじゃねえかと言った。
「まあ、仕方ないだろ。覚めるまでは、なんとかがんばってお足を稼いでおまんまにありつかなきゃあな、、、。」
夢の中でも勤勉 真面目な奴だと思いながら犬に手を引かれるように灯りの見える方の通りに向かってとぼとぼと歩いた。門づけだって、、、。できるのだろうか。歌なんか歌ったこともないのに。
すると 多少賑やかな向こうの辻のほうから大きな男が腹を揺すって小走りにやってくるのが見えた。
「おいおいおい そこの二人 待て。待ちやがれ!」
突進してきた男は大きく両手をひろげて通せん坊をするように私たちの前に立ちふさがった。着物の裾をはしょって尻をからげている。汚い股引きにこれまた擦り切れた紺のタビ、くたびれた雪踏を履いてなぜか右手に十手を持っていた。
私はすぐに袂で自分の鼻を押さえた。この匂い。私の大嫌いな匂い。恐ろしい子供の頃の記憶。そして最近起こった信じられないおぞましい事件が思い出された。
匂いはある小動物のもので私はよほどその動物と相性が悪い。(注、そのあたりのいきさつは美しい星のアーカイブスでおさらい下さい)
やはり、というか。目の前の男はそいつだった。口にするのも汚らわしい変態兎がはあはあと息を切らせて大きいお腹をさすっている。
ジョンレノンが肥満して品がなくなったような顔。のっぺりとした大きな鼻には安物の丸い銀縁メガネをかけている。ここは江戸時代なのに時代考証もできないのだろうか。このアホめ。
「ああ、、、やっと間に合った。手間かけさせるんじゃねえぜ。全く。おい!」
へい。どうも旦那、すいやせん。と犬が腰を低くしてお愛想笑いを浮かべている。
「お座敷があるんだ。」
こりゃどうも有難うございます。犬は丁寧にお辞儀をしている。こちらがそんな態度を見せても兎の岡引きはえらそうにふんぞりかえっていた。それから、しゃーねえねな。まあついてきな。と言ってあごをしゃくった。
「なんだ。この女が歌うのか、、、変な格好しているな。大丈夫なんだろうな。芸の方は、、、。」
なんだとこの馬鹿兎めと私はにらみ返してやったが犬は間に入るようにしてぺこぺことお辞儀を返して ええ、、、そりゃあ。もう、、、などと言っている。
「しっかり頼むぜ。俺はもう腹が減ってどうにもならねえんだからな。」
歩きながら兎がそう言った。
兎に連れられていった料理屋はこのあたりでは少しはましな建物で大きな旅館のような感じだった。広い玄関をあがると庭に面した長い廊下を渡り奥座敷に行く。
お殿様。お待たせいたしました。今芸人を二人連れてまいりました。座敷の外の廊下に兎が正座すると猫なで声で言って失礼しまーすとなんだか気持ち悪い甘い声を出して障子を開けて座敷に入った。
「失礼しまーす。」
なぜか我々も同じような変な口調で挨拶すると座敷にあがった。見ると三十畳はあるだろうか。ずっと向こうの床の間を背にして三人の恰幅のよい侍がお膳を並べて酒を飲んでいた。三人とも金襴の羽織袴で時代劇に出てくる悪代官そっくりのいでたちだった。
三人して正座をして深々とお辞儀をした。ご苦労と上座の侍一人が気のない風な声をかけた。三人とも悪人顔で目つきがいやらしい なにやらひそひそと話してはこちらの方には関心がなさそうだった。
「お殿様、芸人を連れてまいりましたので一つご褒美をお願いします!」
兎が手をこすりながら大声で上座に懇願すると 一人が酌をしている仲居においこの者に膳をやれ、、、と面倒くさそうに命じた。
「おありがとうございます!」
兎は大げさに平伏するともみ手して運ばれてくるお膳を待っている。すぐに上座のものとは比較にならないが皿や椀がいくつも乗ったお膳が運ばれてきた。
たまらないいい匂いがした。私は吸い物の椀のふたを開けようとして目を細めている兎の横からこっそり鮎の塩焼きを盗もうと横から手を出した。
「このあま、何をしやがるんでえ。」
兎が頭に乗ったちょんまげを逆立てて怒った。
「いいじゃない。少しくれたって。こっちだってお腹すいてるのよ!。」
「なんだとう。誰のおかげでお座敷にありつけたとおもってやがるんだ!。」
「私たちが来たから食べ物がもらえたんでしょう。分けなさいよ。あんた!」
つかみあいの喧嘩になる一歩手前まで行ったとき犬の様子がおかしいことに私は気がついた。
「ねえ、どうしたのよ。」
私が尋ねると犬は険しい目つきで上座の三人をにらんでいた。私もそこで初めて気が付いた。この三人は人ではない。妖怪の猿が変身したものだ。私たち三人は敵の宴会に呼ばれているのだ。
「ちょい仕度がございますので中座させていただきます。」
犬は手をついて短くあいさつするとさっと立ちあがった。それから私に目配せすると膳の前で箸を割っている兎の耳をつかんでひねり上げおめえも一緒に来いと言った。いててて、何しやがるんだ。などと兎は文句を言ったが犬の凄い形相を見て完全に恐れをなして従った。
障子をスカリと閉めると三人で庭に飛び降りて築山の陰まで腰を低くして走って身を潜めた。
それから大きな春日灯篭のへりに腰をかけてため息をついた。
「ああ、、、もったいなかったなあ。あの料理、、、。もう少しで食べられるとこだったのによう。」
情けないくらいにしんみりと兎が言った。私のお腹もぐうとその時なってしまった。
「おめえいくら腹が減ったからって 猿から食いものをねだるたあ。一体どういう了見だ。」
犬は例によって正義感丸出しで兎を責めた。
「腹が減ってたんだよう。どうにもならないくらいによう。」
兎は地面を見ながら泣き言を並べた。ああ食いたかったなあ、、、鮎の塩焼き、、、赤貝の黄身酢あえ。ハモの吸い物、、、。」
「呆れた、、、。みんな動物の肉ばかりじゃない。」
「うるせい。俺たち兎族は何十万年も草食しかしてねえんだ。おめえら人間にとやかく言われる筋合いのもんじゃねえ。」
兎は私に食ってかかったが三人とも腹ペコで意気があがらないことおびただしい。すぐに又座り込み兎は泣き言を言い始めた。
「野郎。もういいかげんにしねえか。」
犬が立ち上がってピーマンの肉詰めがどうのこうのとまだ愚痴を言っている兎の頭をぽかりと叩いた。
「いててて。やりやがったな。食いたかったからそういってるだけじゃねえか。この野郎。」
兎も顔を真っ赤にして立ち上がった。
「だいたい なんだ。これはそっちの夢の中なんじゃねえか。なんで俺がこんなみっともない役をやらなきゃいけないんだ。」
もう頭にきたぞと兎は叫んで犬を突き飛ばして巨体を揺らして母屋の方に走って大声で怒鳴りだした。
「お殿様!一大事でございまーす。犬と女がいます。ここに隠れておりまーす。」
兎の奴が裏切ったのだ。すぐにどやどやと手下の侍たちが廊下を行き来しだした。
出会え出会えなどと大げさな怒鳴り声。猿の手下の侍たちがタスキがけで槍を手に屋敷中のふすまというふすま、障子と言う障子を開け放って詮議をしはじめた。
「こっちですう。お侍様!庭に隠れておりますようー。」
兎が大声で注進している。すぐにここから立ちさらねばと思いその前に犬に言ってこの裏切り者をやつざきにしてやろうと思った。
ところがー。
どうしたわけか犬が地面に倒れて足をおさえている。痛みをこらえているようだ。
「どうしたの。一体。」
「さっき兎の奴に突き飛ばされて灯篭にあたって足をくじいたらしい。」
どういうことなのか。あんな弱虫の兎に犬がやられてしまうなんて、、、。
「どういうことってここはあんたの夢の中だからな。俺は知らない。」
つらそうな顔をして犬は言った。おいおい待て。おかしいことを言うものだ。私は犬が弱くなってほしいなどと思ったことは一度もない、、、そこまで考えてはたと止まった。待てよ、、、でも私が潜在意識の中で犬の面倒を見たいと母性本能を持ったとしてそれが犬の弱体化を招いたかもしれないなどと想像してみたがそもそも私は元は男で母性本能など持つはずもないし、、、あーわかんない。
屋敷側は提灯がいくつも用意されめいめい獲物を持った猿たちが庭をとりまくようにしている。せんだって犬にひどい目にあわされたので慎重に歩をこちらすすめているようだった。
私は犬を肩につかまらせて塀際まで後退してその塀を乗り越えようと瓦に手をかけて向こうを見た。なんと無数の御用提灯が闇に浮かんでいる。御用だと一声かかると御用だ御用だと大合唱が起こっている。その中でひと際大きく御用だーと叫んでいるのは間違いない兎の声だった。おのれ兎め。
もう絶体絶命だ。そろそろ恐怖心がじわーりと私の心を虜にしだした。
なんとかできないものか 不幸中の幸いというか、今回は夢の中にいると言う自覚があるのだ。いつものようにオバケに追いまくられて失神を繰り返すのは避けたい。
目の前にあるのは現実ではない!夢だ。これは夢。これは夢。何度も呪文のように心の唱えてみる。目の前にあるものは幻にすぎない。何が起こっても私が傷つくことは絶対ない!なぜならこれは夢の世界だからだ!
一声大きく叫んで私の体は宙に浮いていた。ぐんぐんと夜の闇の中を上空に向かって登っている。あたり一面をとどろかすようなオーケストラの響きが世界を圧倒した。ニ短調の爆発するような出だしと共に私は上空で思い切りよく声を響かせ歌っていた。これはモーツアルトの魔笛の夜の女王のアリアではないか。
地獄の復讐が心臓の中で煮えたぎっている
死と絶望が私をめぐって燃え立つ!
お前がその手であの連中に死の苦しみを味合わせぬ限り
おまえは もはや私の娘ではないのだぞ!
おお!絶好調!心の中で叫びながらも私の体が音楽を呼び私の喉は未だかつて聴いたのないほどの興奮と激情の夜の女王を歌っている。
私の指差すところボーンと炎が上がるのを私は当然のように見ていた。
ーそうとも当然よ!これは私の夢なんだから!私はこの世界の女王なのだわ。ー
つんざくような私のソプラノが音程を上がり下がりしながら 恐怖の夜を演出させていた。爆発音をそこかしこに響かせながらオーケストラも世界の終わりを告げていた。まさに耳をふさぐほどの大音響だった。
夜の闇の中を浮かびながら 料亭の屋根が見えた。庭にいるおぞましい妖怪たちを
私は自分の指から発射される火の玉で焼き殺していった。
そのうち建物にもその火は燃え移り あたり一面紅蓮の炎に包まれ始めた。
なんたる快感だろう。私はなおも一匹一匹と逃げ惑う猿たちを焼き殺していった。町は火事見物の人でいっぱいだ。しかもその人間たちの誰もが様々な動物が変身したものだと気が付いた。
動物の街に私は今いるらしいのだ。皆驚き不安そうな顔をして空を見上げている。
私は夜の女王のアリアをしつこく何度も歌いながら空を飛翔し 火の玉を降らせた。
空を飛び敵を倒す。それがもう気持ちいいったらありゃしないのだった。
ついに 悪の巣窟の猿の料亭は大爆発をおこして消し飛んでいった。猿もあらかた灰になったらしい。私は自分が自分の夢の主役に生まれてはじめてなれたことに気が付いた。この世界は今私の意のままになる。
火の見やぐらの屋根の上に降り立つと私は変身を試みた。これも一度なってみたかったのだ。ぐううっと念力を入れてみると白い毛皮を身にまとったほっそりとした足の女性にはや変わりしている。顔にはインディアンのようなペイントをして勾玉の首飾り。
もののけ姫に私はなっていた。おまえ!と叫んで指をさすと下にいたちょんまげ姿の犬が大きく吠えてもんどりうって巨大な白い山犬に変身した。
うがががあと変身した犬は芝居気たっぷりにあたりを威圧するように雄たけびをあげた。やってきた山犬に私はまたがり石ヤリを振りかざし、一気に目の前に現出させたタタラ場の大屋根を駆け上がった。ここまで駆け上がると目の前に広がるのは星ばかりだ。
ああ、、、ここでアシタカヒコがいてくれたら、、、。
つい独り言を言ってしまう。よおしそんなら俺が、、、と下で見ていた兎が不細工なアシタカに変身しようとするのを手にした石火矢で粉々に吹き飛ばしてやった。
ーなんて気持ちがよいのだろう。ここでは私は何にでもなれるのだ。−
そうか。それならと私はもう一度念力を使って変身を試みた。辺境の地の風使いの少女になろう。狐ザルを肩に乗せて、、、ところが何度念力を使っても変身はできなかった。どうも年齢が離れすぎているらしい。私は自分の想像力の貧困を呪った。まあいいや。
ーお母さん、ここでお別れです。私、これからオッコトヌシ様の目になりに行きます!ー
私は覚えていたセリフをうっとりしながら言うと犬にまたがり、夜の空をかけめぐった。江戸の町、貧相な町、動物が主役の町。皆燃えてしまえ!私は指先から火の玉を発射して町を焼き払った。どう、わかった。人間の恐ろしさを。おまえたちみじめな獣なんて私の力を使えばこうなるのよ。一匹残らずひれふして憐れみを請うがいいわ!
私は自分の本性むき出しにしていた。暴力と破壊、怒りと復讐。まさにこれが私の本質だったのだ。人間の好きなもので私が嫌いなもののわけないじゃない。私そう言って皮肉な笑いを浮かべた。街はあちこちに火の手があがり半鐘がじゃんじゃんなって動物のマークのマトイの火消しが行きかっている。皆パニックになって通りに飛び出して逃げ回っていた。
ーあははは まだまだ お楽しみはこれからよー
私は完全に自制心を失い 自分の力に酔っていた。まさに指輪を手にした魔王のように世界をくしゃくしゃにしようと最高最大の念力を放出して下界に逃げ惑うすべての動物の頭を強打した。
ーこれでも食らえ!キエエエエイ!ー
グワーンという物凄い衝撃エネルギーがその時私の体の中心から放射されたのだ。地がわれ天が張り裂けるような衝撃。世界が大音響とともに一瞬で闇に落ちていった。さしもの私もしばらく気を失っていたらしい。
気がついてあたりを見回すとすべての動物は人間から自分の姿に戻っていた。皆一様に口から白い綿のようなものがだらーりと垂れ下がっている。瞳孔は開きっぱなしで動きもない。一匹残らずそうなっているのだった。
どうやら頭を私の念力に強打されて口からエクトプラズムを吐き出してしまったらしい。(作者注、どうしてそうなったかなどとは考えなくていいです)
生きているかどうかもさだかでない動物たち、犬、猫、やぎ、馬、牛、狸、狐、、、。
皆漂うように腰を抜かして口からエクトプラズムを出している。
ここまで暴れて私は自分の気持ちが一段落したことを自覚した。と同時に自分がひどい空腹だったことを思い出した。グルルルウ、キュルルルルと派手な音でお腹がなって
一気に胃が痛くなった。体の力がすべて抜けてそのまま倒れそうなくらいだった。
それなのに なぜかいい匂いがする。気が遠くなりそうなくらいに、、、。
見ると向こうに兎がいた。大きなマグロほどある鰹節を車ほどの大きさのけづり器に乗せて腰を振りながらザックンザックンと巧みにけずっている。
他の動物も無数の大なべに湯を沸かしてボンボンとそうめんを投げ込んでいる。めんつゆを作るドボドボ班、ねぎを刻むジャキジャキ班、てんぷらを揚げるジュワー班。おろしたてのワサビがプーンと匂い、大根おろし、七味唐辛子の調合もさかんだ。
大勢の動物の口から出ているのはエクトプラズムなのではない。連中はソウメンを食べているのだった。ズルズルとうまそうに、、、。私はふらふらと彼らの元に近付いて行った。
「あげないからね。」
誰かが言った。すると全員が私を見てあげないよーだと叫んだ。
ーそんなことないわー。私は貴方体たちの味方なのよー。本当は。−
私は必死にこの場を取り繕うとしたが誰も取り合ってはくれなかった。
悲しくて悲しくて私は泣き続けた。
(おわり)